「Old Movieが現代を斬る」 ③ / タクシードライバー
2023.04.21
トラビスはタクシードライバーとなってからは夜の街を走る。彼の心理を表すように様々な事を語る。「黒人を乗せない奴もいるが俺は違う」、「夜に出歩くクズは薬中、ポンビキ、泥棒、奴らは全てクズだ」、「クズどもを洗い流す雨はいつ降るんだ」、70年代の雑多で犯罪が多発していたNY、汚れた街にトラビスは怒りを覚えていた
そして一晩中働いて朝に帰宅しても「12時間働いてもまだ眠れない」、「胃がんかも知れない」、「もう愚痴は止めよう。健康なんて気の持ちよう一つだ」などとトラビスの独白は続く。ベトナムでの従軍時代の事はこの映画では殆ど語られないが。深刻なトラウマを抱えていることは推測できる
でもトラビスを見てても淡々と過ごしており、何処か「根無し草」のような印象を受ける。そんな生活を送る中で彼は一人の美女を見初める。ベツィ(シビル シェパード)だ。彼女は大統領選が近いということで、大統領候補のパランタイン議員の事務所にて選挙キャンペーンを行っていた
トラビスは仕事中も彼女が気になり、タクシーの中から彼女を観るようになった。そして事務所に立ち入り「選挙のボランティアとして君を手伝いたい」と申し出て承諾される。少しずつトラビスとベツィーは仲を深めていくが
ある夜に二人は映画を一緒に観る事になった。何故かトラビスはベツィをボルノ映画に連れていき、ベツィをカンカンに怒らせてしまう。当然ながら、あっと言う間にフラれてしまうが。トラビスは何故、ベツィが怒っているのか直ぐに理解出来なかったようだ
トラビスからすれば仕事を終えてポルノを観るのは「自分の大事な、大事なかけがえのない時間」だから、「それを好きな女性と共有したい」というのが気持ちなのであろう
そう余りの「孤独」が彼を著しくズレさせているのだ。そして彼はまた心理的な「根無し草」に戻り、ベツィにも怒りを募らせていた。フラれたのに尚もベツィの事務所に出向いて「何故、電話に出ないんだ。居るのは分かっているんだ」などと詰め寄り。駆け寄る男性スタッフと一触即発の状態となる
そしてトラビスはベツィが「心の冷たい女性で他の人と変わりがない」などと呟く。この件についてトラビスは本当にしゃあない男ではあるが。孤独な若者が社会的な場所を持たずエネルギーのやり場がないというのは程度の差こそあれ、このような状況を引き起こすのではなかろうか