「Old Movieが現代を斬る 」⑦ /タクシードライバー
2023.04.29
(行き場の失ったトラビスの狂気は潜在意識のままにアイリスの元に向かい、そして惨劇が起こる。鳴りやまぬアイリスの悲鳴)。
その後、トラビスは生きていた。以前と同じにタクシードライバーとして勤務している。でも前とは違ってドライバー仲間の間に入り、談笑している。雰囲気が違う。その間、空車だったタクシーに女性客が乗り込む。
その女性客はベツィであった。偶然にも乗り込んだタクシーがトラビスの車だったのだ。暫しの沈黙の後でベツィは「トラビス、元気なの?新聞見たわよ」と声をかける。トラビスは以前にベツィに見せた執着はなく軽やかに「大丈夫だ。パランタインが指名されたな」と答える。
ベツィは高貴だが高慢な女性では決してなく、トラビスに何か言いたげな眼差しを送る。そして目的地に到着してトラビスはベツィからお金を受け取らず。ベツィに何とも言えない笑みを浮かべて立ち去る。
夜のNYに向けて再びタクシーを走らせるトラビス。バックミラーを一瞬見る。その一瞬の眼差しは『トラビスの狂気』がまだ内にあるように私には思えた。だが狂気も惨劇も何もなかったかのようにNYの夜景は流れる。
(END)
●作品の余波
「アイリスの声が聴こえた」として1981年当時の米国のレーガン大統領が銃撃されている。死者は出ていないがレーガン大統領含め重症者数名が出た。
余りにもこの映画でのデニーロの演技が凄かったためかコメディとして「あばよデニーロ」なる映画が作られたが余りヒットしなかったよう。
●作品感想
いつの時代も社会に不満を持つ若者はいる。トラビスや山上容疑者のような一匹狼もいるし、一連のオウム真理教事件のようにカルトが忍び寄る背景もそこにある。作品公開から50年近く経つがSNS世界などに没頭し、外界と接点のない人間などもいる。
極めて今日的なテーマを含んでおり、演出と演技で魅せる。観るべき作品としてご紹介致しました。